『終わった人』を全中高年に捧ぐ。「○○と戦っても勝てねンだよ!」
これまでも何度か記事にしてきましたが、私は内館牧子さんの作品が大好きです。
今日ご紹介する内館さんの小説『終わった人』は実は映画化もされていて、3年前に劇場で観ました。
いわゆる「定年もの」なので、アラフィフの私にはちょっと早いかなぁとも思ったのですが、めちゃくちゃ面白くて、見てよかったと思いました。
3年の時を経て、今回は小説『終わった人』を読んでみました。
映画では描ききれていなかったと感じていた部分が、小説を読むことで完璧な形で理解できた気がしています。
中高年必読の書といえるのではないかと思います。
今回は、『終わった人』を軽くご紹介(決定的なネタバレはなしでいきます!一人でも多くの方に読んでいただきたいので)するとともに、個人的に胸にズシーンときた一文に言及したいと思います。
『終わった人』あらすじ
主人公は田代壮介、63歳。
壮介は、東大法学部卒、大手銀行でバリバリのエリート社員だったが、ひょんなことから出世コースを外され、子会社で定年を迎える。
壮介は、自分の定年を「生前葬」と表現する。
まだまだ頭も体も元気で働けるのに、明日からすることがないという状況に無理やり置かれるのは「生前葬」に他ならないと思っているのだ。
翌日、まったくすることのない壮介は、途方にくれる。
とりあえず、これまで放ったらかしにしていた妻を温泉にでも連れて行こうかと声をかけるも、
「私、そんなに休めないわ。一泊くらいならつきあうけど」
「友だちと行けば?」
と言われてしまう。
妻の千草は58歳。
お嬢様育ちの千草だが、何を思ったのか43歳のときに突然美容学校に入学し、現在は美容師として忙しくサロンで勤務している。
「友だちと行けば?」と言われてしまった壮介だが、仕事一筋だった彼に友人などいない。
何もすることのない壮介だが、ジジババのつどいであるカルチャースクールやシルバー大学などには行きたくはない。
彼がしたいのは、あくまでも「仕事」なのである。
そんな中、ハローワークで仕事を探そうとするも、高すぎる学歴と経歴が邪魔をして、断られてしまう。
「今まで誇りにし、俺自身を育ててくれたものがマイナスになるのはおかしい。学歴や職歴は俺を作っている。俺らしさはそこにある」
そう考えた壮介は、「今こそ勉強し直すチャンスだ」と、東大の大学院を受験することを決意する。
家でブラブラされていてもうざったいと思っていた千草はこれに大賛成。
壮介は大学院受験の準備段階として、あれほど嫌がっていたカルチャーセンターの文学講座に通い始める。
そのカルチャーセンターの受付で、壮介は久里(くり)というバツイチのアラフォー女性と出逢う。
壮介と同じ東北出身で、色白美人な久里に、壮介はほのかな恋心を抱く。
同じ時期に、壮介はとりあえず体力をキープしないとと、ジムに通い始める。
そこで、ジジババから圧倒的な人気を集める、IT企業の社長鈴木(38)と出逢う。
この久里と鈴木との出逢いが、壮介の人生を大きく変えていくのであった。。。
『終わった人』をオススメするわけ
主人公が高学歴のエリート男性なので、その時点で興味をなくす方もいるかもしれませんね。
しかし、この作品の面白いところは、どこか冷めた妻の千草と、妙に悟った一人娘の道子の存在です。
彼女たちが壮介に浴びせるセリフがとにかく痛快で、ときに残酷なのです。
千草は43歳のときに美容学校に通い始め、美容師免許を取得します。
その後は毎日イキイキと美容師の仕事に励んでおり、定年を迎えた夫をうっとうしく感じています。
千草の方が男前で、壮介の方がなんだか女々しいのが笑えます。
道子は子持ち専業主婦で、何不自由のない暮らしをしています。
道子は、父親の壮介が久里に恋をしていることに、いち早く気付きます。
壮介と千草が喧嘩になったときにも、二人がぐうの音も出なくなってしまうような意見を述べたりします。
千草や道子の言い分を読んでいるだけでも、なんだかスカッとしますし、自分の生き方を振り返りたくなるのです。
「思い出と戦っても勝てねンだよ!」
この作品を読んでいて、特に胸に刺さったのは:
「思い出と戦っても勝てねンだよ!」
という一文でした(「あとがき」によると、これはプロレスラー武藤敬司さんの名言だそうです)。
壮介は「生前葬」され、社会的に「終わった人」となった今でも、「成仏」できていません。
自分の絶頂期を思い返しては、
「あの頃は良かった、幸せだった」
「まだまだ俺だってやれるのに」
こんなことばかりを考えています。
しかし、ある友人との会話の中ででてきた
「思い出と戦っても勝てねンだよ!」という言葉にハッとさせられるのです。
私たち人間は、なにかというと
「あの頃はよかった。。。」
と、過去を懐かしく思い、今を嘆きます。
しかし、思い出は時の経過と共に、どんどん美化されていきます。
そんな美化された思い出と「今」が戦ったとして、「今」が勝てるわけがないのです。
私もなにかというと、
「あの頃は…」とつい考えてしまうのですが、これはよくない癖だなと気が付きました。
私たちには「今」しかないんですよね。
「今」できることを精一杯やるしかない。
そんなことに気付かされました。
内館牧子さんの『終わった人』、小説も映画も素晴らしかったです!
映画版の配役も絶妙でした。
小説を読みながら、私はずっと舘ひろしさんと黒木瞳さんを思い浮かべていました(笑)
さて、久里役は誰が演じたと思われますか?
アラフォーの色白美人。。。こちらの配役もピッタリでした!
ぜひ映画を見て、確認してみてくださいね😊
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
皆さん良い一日をお過ごしくださいね😊
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