白石一文 新刊『我が産声を聞きに』~読まなきゃ損~
「ものすごい小説を読んでしまった」
読み終えたあと、そう思いました。
真夜中に読み終えたのですが、案の定興奮して眠れず。
それと同時に、自分が著者の意図をしっかりと把握できたのかどうか不安になりました。
ちょっと人生観が変わりそうな小説です。
皆さんに読んでいただきたいですが、特に主婦の方にはぜひともお勧めしたい!
いったいどんなストーリーなのか、ネタバレなしでご紹介したいと思います。
白石一文『我が産声を聞きに』あらすじ
物語の舞台はコロナが蔓延している2020年の東京。
主人公は、名香子(ナカコ)。47歳の兼業主婦。
一人娘の真理恵(20歳)が大学進学とともに独り暮らしを始めたため、現在は夫の良治(リョウジ)(54歳)との二人暮らしだ。
名香子は大学時代にイギリスへの留学経験があり、現在は週5で英語講師をしている。
良治はバリバリの理系で、大手電機メーカーで研究職に就いている。
名香子は若い頃に気胸を患い、その後何度か再発を繰り返しているため、コロナには人一倍気をつけて生活している。
夫婦仲は良好で、これまで喧嘩らしい喧嘩はほとんどなかった。
ある日のこと、名香子は良治から「先月受けた健康診断で、肺に影が見つかった。それで今月の初めにがんセンターで詳しい検査を受けてきた。その結果が今日出るから一緒に来てほしい」と言われる。
がんセンターで医師から結果を聞いた二人は、とりあえず昼食をとることにする。
行きつけの中華料理店での食事を終えるなり、良治は突然「大事な話がある」と切り出す。
良治の大事な話とは、次のようなものだった。
「いつにしようかずっと悩んできたんだけど、本当に肺がんだと分かったら、そのときはちゃんと話そうと決心していたんだ。
実は、好きな人がいるんだ。
一年ちょっと前に出会って、ずっと付き合ってきた。といっても、こんな状況だからしょっちゅう会うわけにもいかなかったんだけど…
今日から彼女の家に行くつもりなんだ。肺がんだとはっきりしたらそうしようと決めていたから。
(中略)
彼女と出会って、僕は彼女のことがなかちゃん(名香子のこと)より何倍も好きになってしまった」
良治は一方的にそう告げると席を立ち、店を出ていってしまう。
動けない名香子。
しばらく呆然としていた名香子だったが、ふと良治から手渡された封筒の中身に目をやると、そこには良治の愛人らしき女性の氏名、住所と電話番号が書いてあった。
そして「これまで長いあいだお世話になりました。誠にありがとうございました」と記されていた。
名香子はやはり何がなんだかさっぱりわからない。
自分の身に起きていることを把握できない。
夫はいったいどうしてしまったのか。
これは何かのいたずらなのか。
白石一文『我が産声を聞きに』感想(ネタバレなし)
あらすじだけで、ぐっと惹きつけられますよね(私は背表紙にある超簡潔なあらすじだけ読み、すぐさま一冊手に取りレジへ向かいました笑)
「コロナ禍の不倫小説?」
と思う人もいるかもしれませんが、違います。
不倫とか愛人とか、そういう<俗>なストーリーではないのです。
読み進めながら感じたのは、「これは<運命>についての話だ」ということでした。
白石一文さんは、過去にも<運命>を主題とした小説を書かれているからです。
そして最後まで読み終えた私が感じたことは、次のようなことでした。
「配偶者と出逢い子供に恵まれた人は、それは自分にとって<運命>だったと思っている。けれど、それがたまたま<偶然>の巡り合わせでそうなっただけだとしたら?配偶者にとっての、そして自分にとっての<運命>は別にあるのだとしたら?」
それと同時に、こうも思いました。
「配偶者との繋がりは、絶対的なものではない。お互いの努力と一種の責任感で成り立っているもの。片方がその繋がりよりも大切な何かを見つけてしまったなら、いとも簡単に壊れてしまうものなのかもしれない」
ちょっと怖くもなりました。
でも、そんなふうにただ怯んでいるだけではきっとダメなのです。
著者は何も読者を不安がらせるためにこの本を書いたのではないはずですから(タイトルからもわかります)。
さて、この小説には何度か「猫」が出てきます。
運命の象徴であるかのように。
そして、生命のきらめきの代弁者であるかのように。
猫が好きな私は、どんどん物語にのめり込んでいきました。
人との繋がりの儚さ。
<運命>の強大な力。
生命のきらめき。
この小説を読んでいるあいだ、本当にさまざまなことを感じました。
名香子にすっかり感情移入してしまって、良治に腹を立てたり、真理恵の母親に対する物言いにイライラしたり。
名香子と良治の関係の変化に、<コロナ禍>と<病>が大きく影響していることは確かです。
コロナ禍のある夫婦を描いた小説であるともいえるし、運命の大きな力に翻弄されながらも前を向こうとするひとりの女性の物語であるともいえるでしょう。
果たして名香子は良治を取り戻せるのでしょうか?
それとも。。。?
白石一文という作家
私が初めて読んだ白石一文さんの作品は、『私という運命について』という恋愛ものでした。
こちらも素晴らしい作品で、私は泣きながら読みました。
ある女性の29歳から40歳までを描いています。
この作品を読んだのは私がまだ30代前半の頃でしたから、主人公が40になった場面では「うわ~!もう完全におばさんじゃんか」などと思っていました😂
いま思えば、40歳など本当にかわいいものです。
この作品は、永作博美さん主演でドラマ化されました。
永作博美さんは抜群に演技の上手な方なので、ドラマにも大いに泣かされました。
その後も何冊か白石一文さんの作品を読んだのですが、途中からちょっと性描写の多い作風に変化したため、しばらく著書を手にしていませんでした。
何年かぶりに書店で見かけた白石さんの新刊は、表紙が猫ちゃんなうえ、あらすじが『私という運命について』を彷彿とさせるものでしたので、今回購入したのです。
しかもラッキーなことに、サイン本でした!!
今回ご紹介した白石一文さんの『我が産声を聞きに』。
最後まで読み終えると、このタイトルの意味が分かると思います。
ぜひぜひ読んでみてください。人生観がちょっと変わりますよ。
☘☘☘☘☘☘☘
👑ランキング参加中!応援クリックしていただけると励みになります!
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
皆さん、良い一日をお過ごしくださいね😊
★あわせて読みたい記事はこちら